あの時の霞んだ視界に映った息子と共に、夢は場面を変えて時間を遡り、ゼンさんの知らない風景を映し出した。

 否、夢の作り出した映像かは分からない。がたがたと煩い寝台で滲んだ視界が揺れ、白衣を着た医師や看護師が両脇で喚きあっている。左側にいた彼らが突如大きな声を上げると、背広姿の男が乱入してきてゼンさんの顔を覗きこむのだ。

 表情は見えなかった。真っ赤に染まっている顔が、そこにあることだけは認識していた。嗅ぎ慣れない匂いがいくつも鼻をかすめ、それでも認識できないその男の叫び声をゼンさんは懐かしくも感じていて。

 すると、そこですべての音が死に絶えて、男の口元だけがはっきりと浮かぶ。


――どこまで俺たちに迷惑を掛ければ気が済むの?


 悪夢はいつもその言葉と共に終わりを迎え、冷や汗をびっしょりかいて目覚める。

 緊急搬送された日について覚えていることは、多分その映像と、濡れた男の手の硬い温もりだけだ。胃の上にある部分が強いアルコールによって炎症を起こし、吐血したらしいことだけは後で聞かされた。