机の上で頬杖を解いたゼンさんに気付いて、カワさんが手元の本から視線を上げた。

「ゼンさん、本を読みながら少しうとうとしていんだよ。ちょっとうなされていたみたいだけれど、怖い夢でも見た?」
「いや、特に何も見なかった。きっと寒かったんだろう」

 カワさんは察したように、肉付きの良い顔に同情するような愛想笑いを浮かべた。人懐っこい、どこか若々しい笑顔である。悪夢を見るのだとは以前から少し話していたゼンさんは、騙せないらしいと知ってぎこちない笑みを返した。

 ゼンさんが今見ていた夢は、年が明けてしばらくした日の記憶だった。

 ぼんやりとした頭で目を開くと、顔を怒りで真っ赤に染めた息子の顔がそこにはあって、「誰だ」と問うと、すっかりいい歳になった息子が、自分譲りの顰め面を母親譲りの童顔に刻んでこう言うのだ。

――これ以上、俺ら迷惑をかけるつもりか?

 覚醒しきっていなかった時に言われたその言葉を思い出すたび、ゼンさんの胸は引き裂かれるような痛みを上げた。