「あと一冊あったら、ゼンさんの歳とぴったりだったのにね」
「じゃあ、ここから六冊抜けばいい」
「僕の歳かい? それはそれで勿体ない……」
「冗談だ。真に受けるな」
「ゼンさんの場合、顔と口調が冗談に見えし聞こえないんだよ」
「俺はこれでも繊細なんだ」

 手元に残す古本を三人分に分けながら、ゼンさんはそう言って、上機嫌に「ふんっ」と鼻を鳴らした。

          ◆◆◆

 ゼンさんは、ハッとして目を覚ました。どうやら、少しばかり眠ってしまっていたらしい。

 机にある小さな置き時計を確認すると、室内灯に照らし出されたその時刻は午後七時を過ぎていた。あと三十分足らずで午後八時になる。ベッドにはサワさんが座っており、真新しい大きめの椅子を引き寄せて、そこに短い両足を乗せていた。

 本棚には、昨日オカメ看護師が持ってきた本がぎっしりと詰まっている。ミトさんから借りた本は下の段に分けられており、その半分は、昨日カワさんと交替したばかりのミトさんの未読本が並んでいた。