「俺としては警戒も覚えるが、まぁ本を回してくれるって言うんなら、それは有り難く頂こう。本にはなんの罪もないからな」
「うふふふ、本当はゼンさんだって、とっても嬉しいんでしょう?」
「黙れ富裕層が」

 文字ばかりの本が、ビールや煙草よりも刺激的で楽しいなんて、ゼンさんはミトさんに勧められて初めて知ったのだ。欠かさず読む新聞以上に、字がつまった本はゼンさんにとってとても魅力的になっていた。


 そうやってしばらく話していると、少しもしないうちに、三つのダンボール箱が部屋の前に届けられた。一つずつ寄越すと『オカメ』は言っていたはずだが、どうやらせっかちな性格のもと、他の若い職員にでも協力させて運ばせたのかもしれない。


 ゼンさんとカワさんは、廊下から室内へとそれを押して移動した後、一緒になってダンボール箱の中の古本の仕分け作業に取り掛かった。

 大人向けの児童文学、海外や国内の名著シリーズ。純文学、大衆文学、推理小説、恋愛小説、哲学、随筆、――明らかに三人のうち誰も読まない本を除いても、合計八十四冊はあった。