ゼンさんは気に食わないと言わんばかりに怪訝面をしたが、その古本については丁寧に膝の上に置いてから「ふむ」と腕を組んだ。

「オカメは、俺たちがこうして、よく三人で集まっていることを知っていたらしいが……釈然とせんな。何故ご機嫌取りをする? 俺たちの中の形上の保護者が、再度多めに賄賂を渡したのか?」
「ゼンさんって、とことんココを信用していない感じが、ひしひしと伝わってくるなぁ。月に数回は視察団体が来るのに、そんなサスペンスドラマみたいなことはないと思うけれど」
「フィクションじゃなくて、現実にもあるに違いないのさ。外の目なんて、いくらでも誤魔化す方法はあるだろう。それが、お偉いさん方の抜け道ってもんだ」

 ゼンさんの富裕層に対するレッテルは強い。そもそも彼は、組織や会社を信用していない人間だった。

「でも、僕は正直この提案は嬉しいな。ミトさんみたいに頼りになる孫もいないから、彼女にお返し出来るように本を調達できないかなって、ずっと考えていたところだったんだ」

 空気を変えるようにカワさんがにっこりと笑ったので、ゼンさんもそちらに関しては、素直に「そうだな」と良き提案であることを認めて、肩をすくめて見せた。