「へ? 知ってるの……?」
「他の職員が、それを把握しているのかは知りませんがね。――ひとまずゼンキチさんの部屋には、もう一つ大きめの椅子が必要そうですね」

 淡々と言葉が告げられ、彼女はこちらの返事も聞かず出て行ってしまった。

 ゼンさんは、思わず受け取ってしまった児童文学の古本を手に持ったまま、ゆっくりとカワさんへ顔を向けた。

「彼女は何か企んでいるんだろうか。もしかして、俺たちが外に出たいことをどこからか聞きつけたのか、と不安でならないんだが……――というか、カワさん。あんた本人に向かって『オカメ』って堂々と言おうとしたな?」

 指摘すると、警戒心のない天然気質のカワさんが「うっ」と言葉を詰まらせた。

「反射的についうっかり……でも言い掛けただけで、僕は全部言わなかったからいいでしょう……? それにしても、本当にびっくりしたなぁ。本をくれるのならミトさんが喜ぶし、勿論僕だって嬉しいけど、一体どういうことなんだろう?」

 確かに、気になるところではある。