ゼンさんの部屋で、三人が初めて顔を合わせた。何も言わないオカメ看護師が二人を見つめる中、ゼンさんはややあって普段の仏頂面に戻したが、ベッドに腰かけていたカワさんは慌てた表情のまま口を動かした。

「あ、あの、オカ――……っじゃなくて看護師さん、これは、その」

 カワさんの車椅子は、彼の部屋の前だ。それについて指摘を受けるだろうかと推測したものの、ゼンさんは椅子の上で足を組んだまま、肘掛けに肘を置いて踏ん反り返るように構えた。

 オカメ看護師は、そっと扉を閉めると、カワさんの言葉を無視してぶっきらぼうに「体調はどうですか?」とゼンさんに尋ねた。

「すこぶる良好だ」
「薬は? 食事はどうでした?」
「薬はきちんと飲んだぜ。味のないサラダも中々面白味があって良かったが、フルーツとヨーグルトはいいな。便通も良くなるし、腹の調子が悪くならない」
「……ジャムは、職員の手作りですからね。お口に合ったようで何よりです」

 オカメ看護師は少し間を置き、それから淡々とした調子で告げると、背中に回していた手をゼンさんに突き出した。

 身構えたカワさんが、その動きを見て反射的にビクリと怯えた。しかし、三人の間に数秒ほど沈黙が流れた後「あれ?」と、拍子抜けした声を上げて肩から力を抜く。