二人は最近、ミトさんから借りた本を時間潰しに読んでいた。お互いが読んだ本を交換しようかという提案が出たのは、読書習慣が皆無だったゼンさんがはまりだしてからである。

 カワさんは以前自分の書斎で、知人友人からすすめられた書籍は読んでいたという。大半は著者本人から送られた本だったと聞いた時、ゼンさんは思わず「この金持ちのぼんぼんが」と言ったものだ。

 そう悪態をついてしまうのは、本は勉強家か金持ちの道楽であるという認識が強かったからだ。そんなゼンさんの視点は、ミトさんが本を貸してくれたことにより、百八十度――とまではいかないが、やや六十五度くらいは広くなった。

 最近は、時間も忘れて読書に耽ることが多くなっている。体調悪化でのベッド生活の時、両腕をぷるぷるとさせながら、仰向けのまま休憩を挟みつつ読書を行っていたくらいである。

「いい筋トレになったぜ。衰えるばかりの身体には、もってこいだろ」
「変な言い訳だねぇ。ゼンさんって意外に、ミトさん並みの読書家になったりして」
「うるせぇ、富裕層が」

 ゼンさんは、顰め面で照れ隠しをした。彼はお世辞にも余裕のある青春時代は送っておらず、きちんとした教養は持っていなかったのである。生きるために必死で働きながら、必要なことを学んでいったといっても過言ではない。