「オカメに尋ねたところで、どうせ『体調不良です』って言われて終わりだろう。ミトさんが回復して、出られるようになるまで待つしかない」

 ゼンさんは、最後に取っておいた種なし葡萄を口に入れた。好きな物を最後に食べるのが彼のポリシーである。ついでに看護師たちの目を盗み、それをカワさんにお裾分けするのだ。フルーツならば、肥満にも問題はあるまい。

 カワさんはテーブルの下で、ゼンさんから葡萄を一つまみ受け取り「ありがとう」と嬉しそうに囁いてそれを口にした。ゼンさんは元々食が細いので特に問題はないが、大食いのカワさんには、カロリー計算された食事は少な過ぎた。


 職員たちが忙しそうだったので、カワさんは食後に、そのままゼンさんの部屋に入った。

 椅子に腰かけ、時間を計りながら薬を飲むゼンさんの後ろで、カワさんはベッドの端に座って、しばし本棚に並んだ十数冊の古本を眺めた。


「ゼンさん、これ、全部読んだ?」
「半分だ」
「僕も半分読んだよ」
「じゃあ、交換するか」

 薬を飲んだゼンさんは、そう言って一つ頷いた。