入園者の半分は寝たきりの者が多かった。残りは、それぞれ病や疾患を抱えており、身体が頑丈で強いという入園者は一人もいなかったせいでもある。

 ゼンさんは体力が落ちているため長く歩行が出来ず、カワさんは重度の肥満で膝を悪くして短い運動がようやくだった。だから館内を回る時は、それぞれ部屋の外に置かれている車椅子に乗る。

 車椅子は、全ての入園者に与えられているものだった。そして、広い施設内でそれを利用しない老人というのもいないため、大抵の職員は、扉の前にある車椅子で入園者の有無を確認していた。

 ゼンさんとカワさんは車椅子に乗ると、エレベーターを使って一階に降り、そのまま食堂へと進んだ。頭巾とエプロンを着用した小太りの中年女性が、真っ赤な唇を動かして「朝食が始まりますから、席について」と老人たちを急かしていた。

 五十人以上の人間が座れる食堂には、ゼンさんたち以外にも、車椅子に乗った老人たちがゆるゆると集まりつつあった。眉をつり上げた不服顔の看護師たちが、彼らに「こっちですよ」とぶっきらぼうに言って、適当な席に車椅子を固定していく。