「ミトさん、風邪でも引いたのかな?」

 カワさんが、食堂内をチラリと見渡してもごもごと言った。ゼンさんは「さぁな」とぶっきらぼうに答えて、サラダを口に放り込んだ。

 ドレッシングがほとんど掛かっていないサラダは、レタス独特の味だった。甘みのあるフルーツと苺ジャムの乗ったヨーグルトが、とても美味く感じるほどだ。

 一階は落ち着きを取り戻しつつあり、カワさんがゼンさんに伝えていた『戦争状態』は解消されていたようだった。けれど、立ち話をする余裕はあるものの、早朝から来客が絶えないせいで、相変わらず職員たちは忙しなく歩き回っていた。
 
「まぁ、しばらくは天気も落ち着くし、なるようになるんじゃないか?」

 まばらに老人たちが車椅子を寄せる広い食堂で、ゼンさんは元気づけるように、ミトさんに会えないと落ち込むカワさんの項垂れた背中を叩いた。

 体力は半分戻っていたが、それはカワさんの柔らかな脂肪を弾くほどではなかった。気付いたカワさんがこちらを見て「体力を戻さなくちゃね」と苦笑した。精いっぱいの空元気な表情だった。彼はミトさんのことを気に掛け、ゼンさんの体調も同じくらい心配していたからだ。