「僕はここ数日、ミトさんを見ていないんだ。一階には降りていないから、たぶん部屋だとは思うのだけれど……」
「体調不良かね?」
「恐らくは、そうなんじゃないかな。一人でいつも通り動いているのは僕くらいなもので、他の人は家族とか看護師が付きっきりだったよ。ゼンさんもいないから、食事もすごく寂しい」

 そう言って、カワさんはふっくらとした顔を下に向けて、子供みたいな丸い小さな目を膝へ落とした。ゼンさんはそれを見て、枕から少し頭を起こしてこう言った。

「いい歳として情けない顔するもんじゃないぜ、カワさん。天気が良くなる頃には元通りになってるさ。それで、ミトさんの様子はオカメたちに聞いてみたかい?」

 例の看護師頭の呼び名を聞いたカワさんは、すぐに首を横に振ってみせた。

「皆すごく忙しそうで、まだ尋ねてはいないんだ」
「遠慮することなんてないだろう。お前さんは高い額が支給されている年金から、俺なんて売られた家の金でここの使用料が払われているんだぜ?」

 指摘されたカワさんは、それに対しては答えないままもじもじとした。