ゼンさんの部屋に訪れる女看護師の主任は、けれどむっつりと黙ったまま、普段の黄色い歯も覗かせず余計な言葉は吐かなかった。彼女は珍しく覇気のない声で彼の体調を窺い、「またあとで来ますから」と残して、どしどしと部屋を出ていった。

「雨なんて、くそくらえ」

 窓も閉められた部屋で一人、ゼンさんはそうベッドの上で呻いた。

 ここ数日、カワさんが短い時間だけ訪れているが、ミトさんとは顔を合わせてもいなかった。彼女も具合が悪いのだろうか。それとも、俺を気遣っているのだろうか?

 そして何より、こちらの様子を気に掛けているようにも見える看護師の態度についても、不思議でたまらなかった。あの分厚い、真っ赤な口紅の化粧臭い女看護師は、一体何を企んでいるのだろうか? 

 最近は『部屋のフロアの女主任』や『あの女』と言うにはしっくりこず、ゼンさんとカワさんの間では、あの女看護師に『オカメ』という呼び名がついていた。

「ゼンさん、大丈夫か?い」

 午後二時を回った頃、整体を終えたカワさんがやって来た。