バケツをひっくり返したような雨が容赦なく地上に叩きつけ、ゼンさんは柄にもなく、庭園の花が痛んでしまわないかと心配した。ミトさんが好きな花が散ってしまうのは、嫌だった。

 雨天は体調も崩れてしまう。カワさんは関節の痛みが増したので一階にある整体に通い、食事の時間になってもミトさんが降りてくることはなかった。ゼンさんも不調で倦怠感と食欲不振に加えて、頭痛と吐き気をベッドの上で堪える日々が続いた。

 その間、歯の黄色い中年看護師がゼンさんの部屋を訪れ、身体の世話と粥のような飯を食わせて薬を飲ませた。副作用が出るとしゃれにならない事態に陥る危険性がある必要最低限の薬を、とても慎重に飲ませる彼女の姿は意外だった。「ここに優しいナースがいるなんて、俺もとうとう呆けちまったかな」と思ったほどだ。

 どうやら、ひどい天気にもかかわらず施設側は大忙しのようだった。立て続けに奥の入園者たちが大病院に移され、新しい高齢者が空いたそれらの部屋に運ばれた。専門医による診察とリハビリ室も、来客した家族と新入園者で混みあった。