すると、途端にカンカンカンカンッ、とけたたましい音が廊下から響き渡った。フライパンを乱暴に叩いているような音だ。それは廊下を足早に進みながら、ついでのように野太い女の声が「ゴハンの時間だよ!」と喚く越えまで聞え出した。

「今日は来客がないんだな、ひでぇ『声掛けの合図』だぜ」
「うん、そうみたいだ」

 ゼンさんとカワさんは、揃って鍵のついていない閉められた分厚い扉を見つめて、その声が通り過ぎていく様子に身身を傾けて沈黙した。


 愛之丘老人施設では、毎日のカリキュラムが細々と組まれ定められていた。個人によって薬の飲用時間やリハビリの項目予定は変わるが、食事の時間と就寝時間はきっちりと決められている。

 けれどパンフレットで大々的にアピールされている施設の一つである、コミュニティルームの使用も、看護師付きが条件となっていて三割の入園者も利用していなかった。

 庭園はあるが、ゼンさんたちは基本的に単独で建物から出ることは許されず、来客があったときだけ「いつも自由に出入りしています」という状況を作るのだ。