初めてその話を聞かされた時は、ゼンさんは、こいつはお人好し過ぎるんじゃないかと頭を抱えた。自分だったら、他人のことより老体の我が身を最優先に、しっかり自分のテリトリーを守ったことだろう。


 病院に緊急搬送され、薬の副作用で頭が朦朧としていなければ、息子と大喧嘩をしてでも家を守ったはずである。

 あの時は、怒鳴れる力が全部は戻っていなかった。息子とは短く話したが、買い言葉に売り言葉、最後は「父と息子」という関係が憎しみで押し潰されてしまったような気さえする。


 たった一人の息子だった。けれどゼンさんは、再会した際に怒りをぶつけられて、彼が十五歳になるまで一緒に暮らしながら何一つ思い出がないことにも気付いた。

 息子が学校でどんなことをして過ごしたのかも、年を追うごとに起こるイベントや行事も何一つ知らなかったのだ。思い返せば、酒漬けで理性がなくなり暴言を吐き、気付くと乱暴に手をあげる事も少なくなかった日々だった。