「父さんが亡くなって、すぐだったなぁ」

 暇を潰すように、カワさんが思い出す表情でそう言った。会長が亡くなり、息子夫婦の元で老後生活を送っていたカワさんは、その一ヶ月後にここへ入れられたのである。

「僕の一人息子の嫁さんはね、とてもいい子なんだよ。実の母親も世話しなくちゃならないし、辛いってこぼしてはいて……その後に、彼女の両親がわたしの家に住み出した。それから、もう居場所がなくなったんだ」

 ゼンさんなら「この馬鹿者が! 誰の許可を得て貴様らは」と怒鳴るところだが、カワさんはそうしなかった。元々、そのような気持ちを持つことも出来ない男であったらしい、と今なら理解することができる。

 カワさん曰く「血の繋がった自分の親が大切なのは分かる」、「そちらの介護も大変なのに、彼女に自分の面倒までみさせて苦労を二倍にするのも申し訳ない」「息子夫婦には、息子夫婦の生活があるから……」なのだという。