妻と離婚してはじめの一年、彼は生活するために必死で勉強したのだ。ゴミの分類、掃除、早朝一番のゴミ出しも次第に辛いとは思わなくなった。出てくるゴミといえば、ほとんどがビール缶や吸い殻だったような気がするけれど。

 ああ、駄目だ。考えちゃいかん。

 煙臭い匂いが脳裏に呼び起こされ、喫煙の誘惑にかられたゼンさんは、溜息交じりに「やっぱり、一本ぐらい吸いてぇなぁ」と言葉をこぼした。

 緊急入院によってようやく断たれた飲酒習慣は、メシよりも酒という日常生活を送りながら「酒をやめたい」と理性では薄々感じていたものなので、まぁまぁ有り難い。

 しかし、健康を守るためとはいえ、好きで吸っていた煙草をこの歳になって禁煙させられるのは我慢ならなかった。かなりストレスがたまるのである。

 その時、部屋の扉がそっと開き、車椅子のミトさんがやってきた。彼女は机の正面に立つゼンさんに微笑み、それからカワさんを見て、少し驚いたように目を丸くした。