「くそくらえ」

 外仕事ですっかり褐色になってしまった肌は黄色味がかかり、内臓疾患を伴って更に浅黒い色にもなっていた。寝不足のひどい顔も、いつもの顰め面に加えて陰険さが増し、凶悪面の爺さんにしか見えないだろう。

 この老人ホームでは、月一で検査がある。ゼンさんのように持病がある場合は、その時に病気の進行や状態を確認し、現在飲用している薬の成分に問題がないか診るのである。ゼンさんは腹水などは持っていないので、現状維持が続いていた。

 薬は患者の誤飲を防ぐため、病院通いの時と違って一ヶ月分を渡してもらうのではなく、食事の度に看護師から手渡される決まりになっていた。ゼンさんは、無くなってしまった我が家が恋しくなった。

「昨日の夜も、ひどかったねぇ」

 カワさんは、大きなお尻を窮屈そうに椅子に座らせてそう言った。

 今日は平日ではあるが、朝から来客が五組ほどあった。昨夜に獣のような咆哮を上げていた奥にいた入園者が、大病院へ移されることが決まったらしい。もう、長くはないそうだ。