ゼンさんは、そう口にしたカワさんの、実年齢よりも随分若く見えるぷるぷるとした饅頭のような白い顔を目に留めて「ただの厄介払いさ」と意見した。

「俺たちに支給されている金を自由に使いたいんだろう。買い物だってしたいし、旅行にも行きたい。でも、俺たちが邪魔なんだ」

 そもそもな、とゼンさんは片手を振って続けた。

「俺は独りで暮らしていたのに、土地を売りたいだの、面倒が見られないからここにいてくれだのといちいち理由をつけやがる。数十年も前に離婚していたんだぜ? なのに、あいつら突然来やがって……まだ三ヵ月だってのに、もう俺の家はなくなっちまってる」

 くそっ、とゼンさんは悪態をこぼし、壁にかかっている施設のポスターを一瞥した。

「なぁにが『愛と夢がある素晴らしいところ』だよ。監獄もいいところだぜ。職員連中は悪の親玉の子分みてぇなもんだろ。全く、くそくらえだ。――それ、もうそろそろでアレが来るぜ」

 ゼンさんは顎をくいっと動かせて、カワさんに開いたままの扉の方を見るように促した。