ベッドでじっと身を丸めていると、近くの部屋の者達の啜り泣きや痛みを訴え懇願する声や、見回りの看護師の声も聞こえてきた。
「寂しいのよぉ、暗いの、怖いぃ」
「大丈夫ですよ、私たちがいますよ」
「関節が痛むんだ。腰も、足も、ひどく痛いんだよ。どうにかしてくれよ」
「トキ坊っ、トキ坊! あの子はどこだい? 私の可愛いあの子は? さっきまでここにいたんだよ!」
トキ坊という子供を探す老婆については、ゼンさんはミトさんから話を聞いて知っていた。戦後に生まれた男児で、あの老婆が女手一つで育てた一人息子だったらしい。
彼女は日中に誰にも見えない五歳の『トキ坊』と会話し、夜になると、その姿を探すのである。ゼンさんは彼女の叫びを聞くたび、胸が苦しくてたまらなかった。
記憶が後退する。意識が現実から離れてしまう。ゼンさんの母親もそうだった。感情の起伏が激しくなり、最後は目が覚めたままの状態で夢を見続けた。それでも、時々、ほんの数秒正気を取り戻すと、彼女は息子に微笑みかけたりした。
「寂しいのよぉ、暗いの、怖いぃ」
「大丈夫ですよ、私たちがいますよ」
「関節が痛むんだ。腰も、足も、ひどく痛いんだよ。どうにかしてくれよ」
「トキ坊っ、トキ坊! あの子はどこだい? 私の可愛いあの子は? さっきまでここにいたんだよ!」
トキ坊という子供を探す老婆については、ゼンさんはミトさんから話を聞いて知っていた。戦後に生まれた男児で、あの老婆が女手一つで育てた一人息子だったらしい。
彼女は日中に誰にも見えない五歳の『トキ坊』と会話し、夜になると、その姿を探すのである。ゼンさんは彼女の叫びを聞くたび、胸が苦しくてたまらなかった。
記憶が後退する。意識が現実から離れてしまう。ゼンさんの母親もそうだった。感情の起伏が激しくなり、最後は目が覚めたままの状態で夢を見続けた。それでも、時々、ほんの数秒正気を取り戻すと、彼女は息子に微笑みかけたりした。