一体この声の持ち主である老人はいくつなのだろうか。入園して一年以上になるミトさんは、知っている人だろうか?

 ゼンさんは、ひどい疲労を覚えてベッドに倒れ込んだ。思いきり外の空気を吸い、自由に出歩きたくなった。昔のように長時間は動けないので、適度に休息を取って景色を眺めつつ、とにかくこの施設から少しでも遠くへ行ってしまいたかった。

 ここは監獄だ。俺は死なされるために、ここへ送り込まれたのだ。

 この騒ぎを聞いて震えているだろう、カワさんを想像した。カワさんは臆病だが、優しい男だった。怯えながらも、きっとミトさんのことを心配して心を痛めているに違いない。だからゼンさんは、愛之丘老人施設の夜が嫌いだった。

 廊下の向こうは、獣のような絶叫を上げる老人だけではなかった。このような咆哮にも似た叫びは稀だったが、ここでは毎夜どこかの老人が罵声を上げ、怒り狂ったように喚き、よたよたと徘徊してぶつぶつと自分の記憶の世界の話をし、職員たちが対応に追われている。