すうっと開かれる扉の隙間から、非常口へと繋がる廊下の薄暗い照明が見えることを、ゼンさんはひどく嫌っていた。それはひどく不穏をかき立てる不気味さがあり、カワさんのような怖がりでなくとも、好きになれる者はいないだろう。

 月明かりだけの室内では、弱々しい廊下の明かりも、覗きこんで来る職員の顔を逆光で隠してしまうほど目につくのだ。


 ベッドに入ったゼンさんは、今夜もまた扉がほんの少し開けられて、その隙間から「もうご就寝されましたか?」と確認してくる声を、聞こえない振りでやり過ごした。
 彼はその声が、黄色い歯のいかつい看護師であることを知っていた。嗅覚は未だに衰えていないので、独特の声とあの強烈な香水の匂いですぐに分かる。

 確認の声は囁きのように気色悪いほど小さかったにもかかわらず、扉は日中と変わらぬ音を立てて閉まった。薬で眠っていると思っているのだろうか?

「ちッ、くだらねぇ。くそくらえ」

 ゼンさんは寝返りを打った。廊下では何人もの足音が響き、看護師たちのお喋りと「おやすみなさい」が聞こえた。隣のカワさんの部屋の扉が閉まる音を聞き、ゼンさんは彼と、そして彼の向かいの寝室にいるミトさんを想った。