「…………俺は、もう八十五年は生きた。けれど病院で医者が言っていた言葉があてはまるとすれば、薬と付き合って食生活を改めれば、あと約十年は生きられる」

 彼の病は、まだ末期ではない。合併症は腎臓や消化器系を壊しておらず、無理をしなければ生きながらえることも出来るのだ。

 肝硬変を進行させず、肝臓の働きをカバーしようとする他の臓器に負担さえかけさせなければ、この世に未練を残さない年齢まで生きられるだろう。

「たっぷり塩のついたハンバーガーと、――やっぱり、煙草が欲しいなぁ」

 重くなった空気に遅れて気付き、ゼンさんはしょっぱい雰囲気や気持ちを切り替えるようにそう言って、薬を口に入れて水で流しこんだ。

 カワさんとミトさんが笑い、外出許可についての話は出ないまま解散の流れとなった。それぞれが「おやすみなさい」と挨拶をして、室内にはゼンさんだけが残された。


 午後八時の五分前になると、各職員が入園者たちの様子を確認するという作業が行われる。扉は鍵がないタイプなので、あちらからいつでも開くことが出来るのだ。