ゼンさんは、一度小さな置時計を見て次に飲む薬を確認してから、車椅子に腰かけるミトさんと、ベッドに腰かけるカワさんに向かって不敵な笑みを浮かべて見せた。

「二人は、何か薬をもらうことはないだろうね?」
「ないわ」
「ないよ。ダイエットに必須の薬なんてないもの」

 問われた二人は、同時に首を横に振った。

 ゼンさんは「まぁそうだろうよ」と相槌を打ち、それから「実はな」と言葉を続けた。

「今更薬に関しては、薬剤師や医者の助言はいらねぇんだ。俺は一カ月くらい地元の病院に入院していた時、自分の身体の状態と薬の名前、必要な薬剤の成分をすべて覚えたからな」
「へぇ! ゼンさんってすごいなぁ、頭いいんだね」

 途端に、カワさんが瞳をキラキラとさせてそう言った。

 これが会社を経営していた男で、尚且つ七十八歳には見えないな……とゼンさんは思ったが、それについては口にしなかった。

「良くはないさ、自分のことだから頭が回るんだ。というか入園したばかりだった頃に、ここの施設じゃあちょっと薬の組み合わせが違うってのにも気付いたんだ。俺はそれについて変だなと思った一件に警戒を覚えてもいて、だから薬の服用に関しては、口を出されたくないってのもある」