カワさんは、もじもじと足の間で両手を擦り合わせてこう言った。

「介護が必要だからじゃないかな。家にいると、家族に迷惑をかけるらしいし……」
「介護が必要だって? 冗談じゃない、俺はまだぴんぴんしてるぜ」

 ゼンさんは、同じく非介護であるカワさんをジロリと見た。
 彼はぶっきらぼうなうえ目付きが悪いだけなのだが、そうだと知っていても、小心者のカワさんは、つい睨まれたと思って小さく委縮してしまう。

「そもそも考えてみろよ、カワさん。ここにいる連中は自分でトイレもできねぇし、話も通じない。ここにいるだけで俺は病気になって、伏せっちまいそうだぜ。保険だって高額降りてんだ、一人暮らしだって出来る。そうだろう?」

 話を振られたカワさんは、元社長という威厳も貫禄もない呑気な表情で、のんびりと首を傾げた。

「どうだろう? 確かに充分なお金は振り込まれたけれど……正直、家にいると居場所がないんだ。わたしがここにいてくれるほうが皆、安心すると言ってくれるし…………」