「ここを抜け出して、三人で暮らそうか」

 ぽつりとゼンさんが尋ねると、顔を上げたカワさんが悲しそうに眉尻を落として、ミトさんが弱々しく首を横に振った。

「きっと出来ないわ。私たち、家族が許可しないかぎり、ここから出られないもの」
「でも、ずっとここにいたら本当に病気になっちまう。そうなったらおしまいだ、何もかも間に合わない。それに見てきただろ、ここは俺たちが暮らせるような場所じゃない。俺たち三人以外、誰もまともな奴なんていないじゃないか」

 ゼンさんは、窓の向こうの風景を指してそう言った。

「生きてはいるが、夢も希望も自分の生活もない毎日だ。ただ、生きているだけだ。ただただ、生かされているだけじゃないか」
「はじめは、私以外にもこうして話せる人がいたのよ」

 唐突にミトさんが、ゼンさんの話しに口を挟むようにそう言った。

「二人とも痴呆が進んでしまったの。私たちが誰だか分からなくなってしまって、家族が来ても反応しなくなった。老化というのはそういうことよ。いつそれがやってくるのか、誰にも分からないわ。だから私は、ここにいてもいいと思っているの。向日葵が見られないのは残念だけれど、でも、許可さえあれば外出だって出来るでしょう?」