ゼンさんとの結婚生活の苦痛から、神経性の病で内臓はぼろぼろになっていた。そして、そこで見つかったのが肺癌だったのだ。

 闘病生活も虚しく、その五年後に亡くなった。

 当時息子は、成人したばかりだったという。

 妻は煙草を吸わなかった。家中をヤニだらけにし、いつも煙たい空間にしたのも、飲酒により凶暴になって暴力をふるってしまったのも、すべてゼンさんの方だった。彼女はいつも息子をかばいながら、部屋の隅で小さくなっていたから。


 独りで暮らすことが、寂しいなんて思ったことはない。妻がいなくなったあと、女一人で自分を育ててくれた母親を引き取り、ゼンさんは自宅で付きっきりで介護した。

 ゼンさんは強い男だった。それなのに、高齢だった母が他界し、同じ空の下で生きていたはずの妻が、とうに亡くなっていたと知ってから寂しさを覚えた。


 再会した息子によってこの施設に放り込まれ、長年住んでいた家を失ってから更に気持ちは沈んだが、カワさんやミトさんと話せることが心の支えになっていた。