「三人で暮らせたら、楽しいでしょうねぇ」

 ゼンさんは相槌を打つように頷いたが、その真剣味を帯びた横顔がふっと雲る。

「…………年寄りは、邪魔でしかないのだろうか」

 俺は、こんなにも変わろうと努力したんだ。

 ゼンさんは誰に告げるわけでもなく、ぽつりと呟いた。

 何度酒を断とうとしたか、離れて暮らすゼンさんの家族は知らないのだ。肝硬変の合併症で倒れた時、病院で目を覚ました彼は、すっかり立派な中年男になっていた背広姿の人間が、はじめは自分の息子だと気付けなかった。

 けれど苦しい表情をしたその男は、目覚めたばかりのゼンさんに向かってこう言ったのだ。「俺たちに迷惑をかけるのは、これ以上よしてくれよ」と――。

 母さんが死んだのも、全部、親父(あんた)のせいだ。

 数十年ぶりに顔を合わせた息子の口から出た言葉が、ゼンさんの胸に深く刻まれている。聞いた話によると、別れた後、妻は再婚したその年に倒れたのだという。