ゼンさんは窓の向こうを見た。どこまでも続くような青い空が、白い雲を漂わせてそこには広がっていた。人で賑わう庭園は見慣れず、窓を通してどこかのドラマを見ているようだと彼は思った。

 庭園には、車椅子の入園者たちがいる。夢見心地に目で蝶を追いかける者。話す大人たちにも無関心のまま宙を眺め、垂れてくる涎を看護師に拭われる者。中には「どちら様ですか?」「そうですか、いい天気ですね」を繰り返す者。車椅子の背に頭をもたれて眠る者。言葉を話せず、家族と認識も出来ないまま微笑む者……


「ここは、俺たちのいるところじゃない」


 ゼンさんは、やや強い声で低く呟いた。カワさんとミトさんが振り返り、彼らの視線をぴんとのびた細い背に受けながら、ゼンさんは歯を食いしばるようにうめいた。

「だって、そうだろう……? 俺たちは、どこも悪くないんだ。三人でだって生活していける」

 しばらく、誰も何も言わなかった。何度か吹き抜ける風の音を聞いた後、ミトさんがようやく「そうねぇ」と吐息混じりの声をもらした。