「ゼンさんは?」
「好きだったよ。うちの別れた女房が、庭に植えていた」

 ゼンさんは言葉短く答えた。ミトさんは「そう」と呟いて視線をそらすと、木漏れ日のような日差しが差し込む窓の向こうを、懐かしむように眺めた。

「十代の頃に、婚約者の庭でたくさんの向日葵を見たわ。こんなに暖かい花なのねと気付いて、一目で好きになったの。……よく向日葵畑を見に行ったわ。子供がないまま死別してしまったけれど、二番目の夫も向日葵が好きだった」

 その話が途切れたタイミングで、ゼンさんは、チラリと横目に彼女を見た。

「そうだったのかい。俺も結婚する前に見に行ったことがある、入場料が安い小さい向日葵畑だったけどな」
「僕の家の近くに『向日葵の丘』って呼ばれていた友人の豪邸があって、よくお邪魔したなぁ」

 三人は、しばし思い出すように沈黙した。窓から風が吹き込み、めくれそうになる膝の上の本のページを、ミトさんがそっと押さえた。