ワンルームほどの個室部屋の室内には、ベッドと机が一式、小さな本棚が一つあるばかりだ。

 ほとんど白髪になった薄頭を撫でつけると、ゼンさんは「ふん」と鼻を鳴らしてベッドに腰を降ろした。アルコール性肝硬変により黄色くなったごつごつの手が、ベッドシーツを握りしめる。

 机の前の椅子に腰かけていた七十八歳のカワさんが、ゼンさんの顰め面を見て、条件反射のように「おっかないなぁ」と丸みを帯びた肩をすくませた。

 カワさんの百五十八センチの小柄な身長は、身体中を覆う分厚い脂肪に加え、猫背、腰痛もあって小さな巨体を作り出している。肌はぷるぷるとして誰よりも健康的で、一見すると実年齢よりも一回り以上若い印象があった。

「なぜ俺たちが、こんなところにいなくちゃいけないんだろうな」

 ややあってゼンさんは溜息をもらした。引っ込み思案なカワさんも、眉間の皺がトレードマークのゼンさんも、三ヵ月前の同じ日に入園した者同士だった。