彼とは全く逆の生活を送ってきたゼンさんは、いつもの条件反射で「黙れ金持ちが」と告げてすぐに、罰が悪そうに頭をかきむしって謝った。

「ああ、くそ――すまん、俺は言葉が悪いだけで怒ってはいない。金持ちなのが悪いわけじゃなくて、単に俺が葉巻を知らないってだけさ。俺の家を売った金が、こんなところにつぎ込まれていると思うと、むしゃくしゃしちまって」

 ゼンさんは言いながら、カワさんの怯えた表情に安堵が戻ったのを見て、肩から力を抜いた。

「なぁカワさん、あんた、喧嘩もしたことねぇだろ」
「それ前にも訊いてきたよね。怖いことには関わったことがないなぁ」

 その時、カワさんの隣で、ミトさんが可笑しそうに笑ってこう言った。

「ほんと、いいわねぇ。こうして普段からずっと、長く三人でゆっくり過ごせればいいのにと思ってしまうわ」
「ほ、ほほほほんとうですよね。僕もそう思いますッ」

 二人っきりの方がいいんだろ、とゼンさんは、にやにやしてカワさんを見やった。少し頬を赤らめたカワさんが「違うんだよ」と慌てたように言い、不思議そうに見つめるミトさんから視線をそらして、「えっと、その」と返す言葉を探す。