くそ忌々しい。

 その言葉が、何度もゼンさんの脳裏をかすめる。

 数十年前に妻が引き取ったはずの一人息子のおかげで、部屋の窓にも室内にも、コンパクトサイズの火災装置機が取り付けられていた。それは安物ではあるが、ミトさんやカワさん同様に、親族から大金をつかまされたに違いないという想像が拭えない。だから、ゼンさんはそれを思って、再び大きな舌打ちをした。

「くそっ、煙草が吸いてぇな」
「この前はお酒だったわね」

 ミトさんが、少しおかしそうにそう言った。

 ゼンさんは、ややあって窓から彼女の方へと視線を向けた。

「酒はもう懲りたんだ。今は、美味いメンソールの煙草が一本あればいい」
「あら、そうなの?」
「ゼンさんはよく吸いたがるけれど、煙草って美味しいのかなぁ……? 葉巻をやっていたけれど、どんなに高くても味は変わらないし、美味しくなかったよ」

 大企業の元社長らしい華やかな生活を思わせる、けれど当人は微塵にも気付いていない様子で、カワさんがのんびりとした呟きを上げた。