日曜日のこの日、市の職員の視察と、普段より多い入園者の家族の来客が重なり、一階は忙しくなっていた。

 ゼンさんに言わせれば、もっぱら看護師たちは、来客たちに愛想をまきながら入園者を見張るのが仕事みたいなものだ。「少しでもあたしらに不利なことを喋ってごらん、承知しないよ」とその目は語っているようにさえ思えた。

 とはいえ、来客が誰だか分からない者が大半だろう。普段ぼんやりとしている老人の内、来客の出入りを何か楽しいことだと感じて、上機嫌ににこにことしている者もあるけれど、面倒事を避けるように引きこもって沈黙している入園者もいる。

 室内には冷房がかけられているにかかわらず、ゼンさんは『開けるな厳禁』という注意書きの紙が貼られた窓を開けて、いつもの顰め面で下に広がる庭園などの風景を見降ろしていた。

「ふんっ、一階は戦場かね。おかげで、こっちの個人部屋のあるフロアは、静かでせいせいするぜ」
「こう言ってはなんだけど、確かにそうよねぇ。いつもみたいにいきなり入って来られて『今何をしているの』といちいち確認されることもないから、のんびり出来るわね」
「うん、そうだね」

 カワさんは、ゼンさんとミトさんの意見を控えめに肯定した。机とセットになっている例の椅子に腰かけて、身をすぼめて両手をもじもじさせている。その視線は、車椅子に腰かけて読書をするミトさんにちらちら向けられていた。