「美味しいですよね? たくさん食べてくださいね」

 看護師の大きくて分厚い真っ赤な唇が開いて、ヤニで黄色くなった歯が覗いた。キッチン側にいた新入りの三十代看護士に、エプロンをした中年の女がこう言った。

「ああやって少し厳しくしないと、彼女たちはすぐにつけあがるからね。知識がある分、子供より性質が悪いのよ。虚言癖もあるし、頭も老化しているから、私たちがしっかり管理してあげなくちゃいけないの」

 おい、普通に良識もある奴らだっているんだぜ。

 ゼンさんは施設のあり方にますます不審を覚え、味気のない減塩料理を乱暴に噛み潰した。

          ◆◆◆

 五月が明けると、初夏の前触れらしい暖かさが訪れた。気候は安定し、日差しはだんだんと強くなってくる。

 蒸し暑さすら覚える外の熱気に嫌気がさし、職員たちは五月下旬からすでにフルで冷房を稼働させていた。そして六月の後半になると、人が行きかう一階はゼンさんたちにとって寒いくらいになった。