写真はひどく古い。結婚式同様、ゼンさんが奮発して作らせたものだ。しかし、お金が足りずに作れたのはこの一つだけで、妻はそのペンダントも忘れて家を飛び出していった。

「マサヨシ」

 向日葵園の通路を進んだゼンさんは、彼から五メートルの距離で立ち止まって、そう声をかけた。

 同じように立ち止まったマサヨシが、しばらくかかって、こちらに顔を向けてきた。力の抜けた怪訝そうな、どこか面影が似ている二人の表情が向かい合って、数十秒の沈黙が続いた。

「…………お前に渡したいものがある。いや、返さなきゃならないものだ」

 ゼンさんは、訝しむマサヨシに歩み寄った。ロケットペンダントを取り出すと、彼の背広ポケットのにそれを押し込んだ。

「母さんの物だ。返す。大事にしろ」

 ゼンさんはそれだけ言うと、少し後退して彼から距離を取った。

 マサヨシは、ポケットに入れられたペンダントを取り出し、中を開いて切なげに目を細めた。彼の鼻頭、目尻、眉間に、ゼンさんの知らない薄皺が刻まれた。