ゼンさんはぎゅっと拳を握りしめると、奥歯を食いしばった。泣いてはいけない、泣いてはいけない。そう自分に言い聞かせて笑顔を繕い、彼はミトさんの横顔にそっと微笑みかけた。

「きっと、カワさんは三人でここに来られたのが、とても嬉しいんだ。感極まっちまったのさ」
「――そう、きっとそうね。とても嬉しいのに、なんだか私、とても切ないの」

 物静かなミトさんの横顔から、涙が頬を伝って流れ落ちていった。


 立ち止まる事なく通路を奥まで歩いていたのは、マサヨシだけだった。ゼンさんは背広姿の息子を振り返り、陽炎さえ見えるような日差しの道に目を細めた。

 大きな背広の背中が遠く感じた。両腕をポケットに詰め込み、少し項垂れるように歩くマサヨシの背は、長い年月を経て全てを拒絶しているような気がした。
 

 遠い。俺たちの間には、これだけの距離がある。

 ゼンさんは、カワさんとミトさんからそっと離れると、ポケットに手を入れた。触れたロケットペンダントには、新婚だった頃のゼンさんと妻、そして赤子のマサヨシが映っている。