けれど、ゼンさんは彼を笑わなかった。

 カワさんは傘を少し下げるようにして、声を押し殺して泣いていた。一生懸命笑おうともがきながら、けれどすぐには表情を戻せない様子で、必死に下唇を噛みしめている。そっとカメラを降ろしたミトさんの瞳から、一滴の涙が頬を伝った。

 自分の目尻に浮かんだ涙を、ゼンさんは二人に気付かれないうちに乱暴に拭った。三人で立ち尽くして、ただ、世界そのものになってしまったような向日葵の絨毯を眺めた。

 しばらく、誰も動かなかった。ようやくミトさんが、そっと振り返って「どうして泣いているの」と震える声で微笑み、カワさんが「嬉しくて」とどうにか言って、大人げないほど顔をくしゃくしゃにして、今度は小さな声をもらして泣いた。

 数日後にミトさんは、愛之丘老人施設からいなくなる。そして、これが最初で最後に果たせた約束であることを、ゼンさんもカワさんも知っていた。