国道に入ってしばらくすると、ミトさんは、カワさんの肩にもたれるようにして眠ってしまった。

 カワさんは頬を真っ赤に染め、どきどきしながらも動かないよう、窓から流れる景色に視線を移して気を紛らわせていた。ゼンさんがにやにやすると、彼は耳まで赤くして硬直してそっぽを向いた。


「……でも、父さんとこんな風に話せるなんて、思わなかったよ」

 ふと、マサヨシが言った。

 ゼンさんは顔を顰めて「あ?」と視線を向けやった。カワさんが心配したように「ゼンさん」と小さな声で言う。
 マサヨシは前方を見据えていたので、バックミラーからは額しか見えなかった。

「いつも、片手にビールだったから」

 マサヨシは少し間を置いた後に、思い出したようにそう言って言葉を切った。ゼンさんは腕を組んだまま首を持ち上げ、ややあってから擦れ違う車へと視線を逃がした。

 あの頃は、ほぼ切らさずに酒を飲んでいた。まともな会話はなかったと思い出して、ゼンさんは自分に言い聞かせるほどの声量で「そうだったな」と言って目を閉じた。耳に残っているのは、妻と息子に命令する自分の罵声ばかりだった。