「大丈夫だろう。時間はある」

 稼働し続けているカーナビに気付き、ゼンさんは難しい顔のまま「まぁお前に任せるよ」と半ば投げやりに言った。少し寄り道してしまっても、目的地までの道に迷うことはないだろう。


 数十分もしないうちに、車は畑道に差しかかった。外の光景に気付いたマサヨシが、運転席側で操作して後部座席側の窓を開けた。

 窓の向こうを見たミトさんが「牛がいるわ」と微笑み、カワさんも「本物の牛だ」と興奮したような声を上げた。彼の場合は牛を見た感想よりも、ミトさんが楽しそうなのが嬉しいらしい。窓を見ようと寄りかかられて、身体を緊張させていた。

 どうやらマサヨシは、方向感覚や記憶力といったものが良いらしい。それから十分もしないうちに、彼が先程『向日葵畑らしいものがチラリと見えた』と口にしていた、目的の場所の横を、車はゆるやかに走っていた。


 普段はトラクターが通っているばかりの土道で、響く振動に揺られながら、ゼンさんは顰め面で押し黙っていた。