ゼンさんは窓から彼へと視線を移し、記憶を手繰り寄せながらしばし考えた。

「俺には覚えがないな」
「そうなの? 僕の記憶に間違いがなければ、リハビリ室の壁に掛かっていたものと同じなんだよ」
「てことは、あの麦わら帽子は飾り物かよ」
「うーん、手に届く高さに並べて数個置かれていたから、使われているとは思うけれど」

 ゼンさんはつい、あのスドウ医師を思い浮かべた。彼なら勤務姿のまま麦わら帽子をかぶっていても、なんだか違和感がない気がしてならない。

 けれど同時に、オカメ看護師も似合うことに気付いてしまい、ゼンさんは苦々しい表情で沈黙した。その時はきつく縛った髪が見えなくなるので、本格的に性別の判断が難しくなってしまうだろう。

「ゼンさん、どうしたの? 車酔い?」

 カワさんがそう言い、ミトさんごしに顔を覗かせる。国道をスムーズに走らせながら、マサヨシがバックミラー越しにちらりとこちらを見てきた。

 ゼンさんは、組んだ足に視線を向けたまま、「いや」と遠い目をしてぼやいた。