ゼンさんは「やれやれ」と窓側に身を寄せて、そこに肘を掛けた。その途端、ガチャリ、とロックの掛かる音が上がって驚いた。どうやら運転席側でマサヨシがドアの鍵をロックしたようだ、と少し遅れて気付いた。

 車は安全に下り坂を進んで平地に辿りつくと、畑と住宅を抜けるように進んだ。
 信号機がぽつりぽつりとしかない一本道に出ても、擦れ違う車は三台もなかった。途中、トラクターが道路脇をゆっくりと走っていった。日差しは強いが、施設内とは違い生温い風もどこか涼しく感じられた。

 十数分後に国道へ入った頃には、走行車の数がぐっと増えていた。平日なので混んではいないものの、隔離された場所に長くいたゼンさんには新鮮だった。ミトさんはまた眠ってしまい、マサヨシは無言のまま各車窓を運転席側の操作で閉めた。

「ねぇ、ゼンさん。僕たちが受け取ったあの帽子、どこかで見たことない?」

 沈黙が気まずいマサヨシを意識しないよう、カワさんが明るい声を努めて、そんな話題を口にした。