職員の手からミトさんの予備の薬、十二時四十分までには飲まなければいけないゼンさんの薬各種が、マサヨシに渡された。他には、もしものときのためのタオルや着替え、オムツなどが詰められた手提げ鞄が預けられた。

 そのタイミングで、例の『スドウ』と呼ばれていた若い男性医が「やぁ、こんにちは。清々しい朝だね」とウィンク付きでやって来て、マサヨシに思いっきり一瞥されていた。怪しいヤブ医者に見えたのだろう。ゼンさんは何とも言えなかった。

 車のトランクに荷物を乗せ、スドウが膝掛け付きのままミトさんを持ち上げて、車の後部座席に移した。マサヨシは愛想をまくこともなく運転席につき、広い後部座席左側にカワさん、中央にミトさんが座る。

「ゼンキチさん、ミトさんを車椅子に移動できますか?」
「出来る。俺の母親も、数年は車椅子だった」

 マサヨシの車の後部座席に乗り込む前に、ゼンさんはそう答えた。スドウはほっとしたように、それでいて少し残念そうな笑みを浮かべた。