「女は化粧臭いし、男の方も香水がきつくてかなわん」

 ミトさんがカワさんと話しつつ、車椅子をしっかり固定する音を聞きながら、ゼンさんは口の中でそう愚痴った。病院だったらアウトだろう、と常々思っている。

 入園者の食事は、一人一人に合わせたメニューとなっていて量も違っており、名前が書かれた札付きのトレイがそれぞれの席に運ばれてくる仕様だった。

 ゼンさんは、肝硬変患者用のメニューだ。塩分と脂肪分が抑えられ、たんぱく質の量もすべて計算されている。カワさんは体重減量を目的とし野菜重視でカロリーが控えられ、カルシウムやビタミンも摂取するようなメニューになっていた。

 ミトさんの食事は、体重に合わせた平均的なメニューである。ゼンさんやカワさんと同じように、フルーツとヨーグルトがデザートとして付いている他、野菜ジュースではなく普通のオレンジジュースになっていた。

 看護師たちは、入園者の食事が乗ったトレイをせかせかと置いていくので、汁物が激しく揺れてトレイにこぼれてしまうことにも、ゼンさんは苛々していた。この前フルーツに味噌汁がかかったときは切れそうになった。それをぐっと堪えられたのは、反抗的な入園者に対する彼らの対応を知っているからである。