なんなんだ、あいつは? 俺以上に捻くれてやしないかい? ゼンさんは訝しみつつ受話器を置いた。明日の頼みごとを最後に、息子は容赦なく縁を切ってくるのだろう。けれど、それでいい。これ以上の迷惑は何一つかけられない。

 そう考え車椅子を後ろへ向けたところで、ゼンさんは顰め面のまま、ピキリと動きを止めた。真後ろにオカメ看護師が立っていたのだ。

 真っ赤な唇をへの字に曲げ、濃い化粧の顔に浮かぶオカメ看護師の仏頂面は、女を装った別の生き物に見えた。筋肉に押し上げられた脂肪は、彼女の体格を更に大きく見せている。

 それではまるで『おっさん』のよう……いや、そこまで考えるのは失礼だろう。そうだ、『おっさん』ではなく『中世的なオカメ』だ。それだとしっくりくる。

 ゼンさんは、ようやく納得して身体の強張りを解いた。

「ゼンキチさん、明日は晴れるそうで良かったですね。車椅子、どうします?」
「俺は歩ける。ゆっくり歩けばいい」
「それでは、予備の松葉杖を持たせておくことにします。カワゾエさんは回答を渋りましたので、無理やり『予備の車椅子を積む』ことに同意させましたが」

 そこで、オカメ看護師がにやりとした。

 ゼンさんは思い切り顔を顰めると、鼻から短い息を吐いて車椅子を半回転させた。