『脂っこい食べ物、塩分が強い食べ物は厳禁。朝の十時に出発だから、それまでに飲む薬はきちんと済ませること。あと、そっちの医者から言われたのは、時間が来たら絶対に忘れず薬を飲ませるように、とも忠告を受けた』
「忘れたことはねぇよ、薬を切らしちゃならん身だからな。逆に、服用をやめて無茶をすれば、いつでも死ねるぜ」

 頼みごとを聞いてくれるのであれば、お前が望めば死んでやると言った件について思い出し、ゼンさんは茶化すようにそう告げた。

 けれど息子は、そちらについては沈黙で応えた。

『…………『ミトさん』という人は、硬い食べ物は基本的に駄目だそうだ。頻繁に眠るし介護が必要だと――そういえば、話を聞いたんだけど、父さんはお婆ちゃんの介護をしていたんだって?』
「ミトさんのはまだ軽い方さ。あれくらいの介護なら俺でも出来るし、カワさんもついてる。お前にゃ迷惑をかけない。運転だけ頼む」
『――へぇ、運転だけ、ね……分かった。諸費用はこっちで持つから。じゃ、明日の朝十時にっ』

 語尾が強くなり、叩きつけるように荒々しく電話を切られてしまった。