短時間の睡眠が増えていたミトさんは、ゼンさんとカワさんが話し始めて三十分ほど経つと、集中力がものの見事に切れてしまったように眠りに落ちた。

 疲れさせるのも可哀そうだと思い、二人はオカメ看護師にあとを任せて、ミトさんの部屋を出た。ミトさんの外出準備は、彼女がやってくれるらしいので心強い。

「元気そうで良かったね」

 カワさんの丸い瞳から、また、ぽろりと一粒の涙が頬を伝って落ちていった。ゼンさんは一つ頷くと、視線を前に向けたまま、彼の脂肪が厚い背中を叩いた。涙は見なかった。
 カワさんは、小さな声で「ありがとう」といって雑に涙をぬぐった。
 

 それからニ時間ほど経った午後四時過ぎ、ゼンさんは再び一階カウンターに呼び出された。息子のマサヨシから電話が入ったからだ。立ち場なしもきついので、またしても車椅子でそちらに向かった。


『少し調べたけど、そんな大規模でなければ、近くにある遊園地でもいいと思う。敷地内に向日葵園があるんだ。国道を車で飛ばせば、そこからだと一時間二十分では着く』

 マサヨシは淡々と語った。愛之丘老人施設と外出許可の件でやりとりをした際、ゼンさんの薬を持って行くことなどについては、数点注意を受けた事も明かした。