ゼンさんは、ベッドの脇にある椅子をカワさんにすすめて、自分は窓へと歩み寄った。施設の裏側になるこちらの部屋からは、大きな丘が連なる緑の田舎町がよく見渡せた。
 カワさんは相変わらず、ミトさんの前になると両頬を染めて緊張した。それでいて、相変わらず嬉しそうに話し出すのだ。ゼンさんは、しばらくその声を聞いていた。

「ゼンキチさんは、ずいぶんと話し方がお上手ですね」

 ゼンさんが窓の外の風景を見ていると、オカメ看護師が隣に並んでそう言った。彼が顰め面で「いけないかね」と愚痴ると、彼女は「いいえ」と首を横に振った。

「ただ、少し意外でした」
「母親の介護をしていたからな」
「そう」
「ああ」

 短い会話が途切れた。すると、ミトさんの声がゼンさんを呼んだ。

「ゼンさん、ゼンさん、みて。ひまわり。カワさんがくれたのよ」

 ペンと色鉛筆で描かれた絵は、大雑把で繊細さには欠けていたものの、色の強弱は取れていて確かに向日葵に見えた。こちらに向けてその絵を見せるミトさんは、とても幸せそうで、だからゼンさんも自然と頬皺が緩んだ。