小高い丘の上にある、来客用の広い駐車場と噴水付きの美しい庭園も持った、公園と公共施設が融合したという印象が強い大きな白い建物が、愛之丘老人施設だ。

 一人一人の健康管理がいき届いた食堂と、老人たちが自由に過ごせるコミュニティ広場を一階に設置し、二階からは個室の宿泊施設となっていてプライベートが守られている。

 技術と免許を持った専門医、看護師、栄養士、薬剤師はどれも長い経験と実績を持つベテランで、入園費は高額ながら人気を誇っている施設だ。設立歴史は長く、外部からの評価はすこぶる高い。

「ふん、『くそくらえ』だ」

 二階の自分の部屋から朝の庭園を見下ろし、ゼンさんは、広い敷地内を覆う高い塀を睨みつけた。深い皺が刻まれた皮ばかりの褐色の顔には、嫌悪感を露わにしていた。彼は今にも舌を打つ表情で、よく乾いてしまう薄い唇を舌先で湿らせる。

 ゼンさんは、今年の春に八十五歳になっていた。痩せ過ぎて深い皺が目立つ顔は老人そのもので、その眉間には長年連れ添った消えない皺も刻まれていたが、すらりと伸びた長身で背もぴんと伸びている。